2 用語について
「同じ用語でも、化石と現生生物ではまったく意味が違う」
ここでは進化を考えるうえで特に大切な用語、生物学と古生物学、系統発生(学)あるいは進化(学)と比較解剖(学)、そして個体発生と系統発生、さらに相同と相似、変異と変化、対称性の定義について確認しておきます。
生物学と古生物学:
ほんらい生物学は地球上の化石を含むすべての生物の学問ですが、化石を扱うのが古生物学、今現在生きているかあるいはおおよそこの数千年生きていた生物を扱うのが生物学、と一般的に呼ばれています。しかし、厳密には後者は現生生物学というべきです。つまり現生生物学は主に生きている生物を研究対象にするのですが、古生物学は地層の中に埋もれている化石を研究対象とします。
化石は、死んでから文字どおり化石になるまで、何万年あるいは何千万年をかけて地層ができるのとおなじ経過をたどります。つまり化石は地質学的な面と生物学的な面を併せてもっています。それゆえ古生物は化石として残りやすい器官(脊椎動物ではおもに骨と歯)、しかもその形が主な研究対象となります。
一方、現生生物学は様々な手法(生態学、生理学、解剖学、発生学、遺伝学、分子生物学等々)で研究できるのですが、せいぜい1万年以内、つまり現在時間の現象が研究対象となります。
それ故この二つの学問は時間のスケールが全く違うという決定的な違いがあります。現在時間での生物現象と万年をかけた現象では、おのずと両者の法則が違ってくるのです。この意味において厳密に現生生物学と古生物学として区別しなければなりませんが、ここでは慣例にしたがい現生生物学と生物学とを同義で使います。
系統発生(学)あるいは進化(学)と比較解剖(学):
系統発生は比較解剖と同義として扱われることが多く、対象は化石から現在の生物を含みます。しかし、多くの本では現生生物の比較も化石の比較も区別することなしに、系統発生あるいは進化としていて議論が混乱しているように感じています。ここではそのような混乱の起こらないように化石を用いた学問を系統発生(学)あるいは進化(学)とし、現生生物の比較を比較解剖(学)として使うことにします。
その理由は、化石を地質学的時間の順序で系統的に配列したのが進化(系統発生あるいは系統進化)であり、逆に進化は化石でしか実証できないのです。それゆえ系統発生と進化とは同義なのです。
いっぽう比較解剖学は、本来、化石を含む個体、器官系、器官、組織、細胞まで、その分化と発生を研究象としますが、上記の古生物学と現生生物学の違いと同様に、現生生物の比較研究についての適当な用語がないために、ここでは比較解剖(学)の対象をおもに現生生物に使います
以上から、進化(学)は化石(古生物(学))のみから立証される系統発生(学)であり、現時点(現在から一万年位の範囲)での生命を比較する生物学を比較解剖(学)として、両者を区別します。そして、できうる限り古生物(学)=進化(学)=系統発生(学)の用語と生物(学)=比較解剖学の様々な用語とを重複させないようにしたいとも考えます。
繰り返しますがその理由は、生物(学)の用語に伴う時間の概念が現在時間であること、古生物(学)の歴史的時間の概念が殆ど含まれていないためであり、また逆に、古生物(学)には現在時間の変化が狭くしか捉えていない、ということです。
一例を挙げます。
遺伝、遺伝子、DNAは生物学的用語ですが、古生物の進化の現象にもよく使われる言葉です。「種」は遺伝子が安定しているグループ等々として使われます、しかし化石と古生物の「種」はまったく定義が違います(これは2古生物学的時間と生物学的時間の違いについて、で検討を加えます)。
現生生物の種は生息範囲、軟組織を含む全体の形、遺伝子そのほか諸々の要因で決めますが、化石は主に化石に残りやすい硬い組織の形と発見された地層と地域よって種が決められます。ですから古生物ではでは現生の遺伝に関する用語をできるだけ使わないほうが両者の現象の原因の推定の混同・混乱を避けられる、といえます。(このことは、生物のある一つの形質が一遺伝子のみで決はまらないということが分からないと理解できないかもしれません、これについては徐々に検討を加えていきます)
個体発生と系統発生について:
以上のことから、個体発生は現生生物の生殖から死までの一生を扱い、系統発生はある化石の種が地球上に出現してから(ある場合には消滅するまで)の過程を扱うことがわかります。この違いは4の系統発生と個体発生の関係において検討を加えます。ここでは発生という共通用語が用いられても、時間的に全く違う現象であることを確認しておきます。
相同と相似について:
この用語も同様の混乱を含んでいますが、進化を語る上で欠かすことのできない用語と概念です。
まず相同は、化石の上で共通の先祖に起因する類似性をいい、相似は先祖が違う類似性の現象です。しかし、現在の生物学では類似的形質でも、同じ遺伝子座にあることもあるし違う座にあることも分かっています。つまり相似と相同が明確に分けられなくなっているという面もあるのです。(系統的に化石が揃って入れば相同か相似かを判定するのですが、そうならない場合がほとんどです)
古生物に話を戻せば、歴史的時間と地理的分布において系統的に同じと考えられる類似形質が相同であり、時間的にも地理的にもことなる系統にある類似性を相似とします。両者の関係は新しい一連の化石の発見がない限り変わりません。
以上のように古生物学的意味(概念)と生物学的意味(概念)は異なるので、両者を混同せしめるような用語の使い方をできるだけ避けるのが妥当だろうと考えています。以上に挙げた用語意義にも、たとえば「形質」も化石と生物は意味が違いますが、それはその都度説検討を加えてゆくことにします。これ以外に次の用語に注意していただきたいとおもいます。
変異と変化について
私は変異と変化という用語を区別して使います。変異や変異性とはおなじ時間における違いを意味しますが、いっぽう変化とは時間的な流れによる違いを意味するのです。例えば現生生物のある種の違いは種の変異性であり、個体発生でも系統発生でも時間的な流れにおける違いが変化である。変化について、一般的に個体発生では分化や成長、老化、退化、退縮などの用語が使われ、系統発生には進化や退化などが使われます。
対称性について
本論では体制などの原則で「対称性」を用いますが、その意味はバランスをとりあるいは調和する構造や機能などのことです。対称性とはおもに2つの意味があり、一つは位置的に同じものが反対側にあること、もう一つはバランスをとるというものです。ここではその両者を意味すると同時に、拮抗作用や対立作用など機能的な意味なども含んでいます。
注意して頂きたいことは対称には様々な型があるということ、例えば鏡面対称、3軸対称、多軸対象、などなどです。これは生物学の対称性を参考にしてください。2terminalogy