魚類の歯 

魚類の歯は形や発生が非常に多様であることが特徴となっています(注)。しかしそうは言っても共通の特徴があります。それは、まず非常に多様であること、そして構造が「象牙質歯」と呼ぶべきであること、そして何回も交換する特徴(多生歯性)です。交換様式は多種多様で一口で纏められません。

注 魚の歯のいろいろは専門の本を参照ください。

 魚類の歯は、強い中胚葉の影響の下に形成されるため殆どすべて象牙質からできている「象牙質歯」です。しかし一見すると歯は、その先端を覆うエナメル質のような構造による歯冠と、歯冠の内側およびその根元の歯根に区分されます。歯冠の内側と歯根の構造は我々の歯の象牙質とほぼ同様の発生によって作られ、構造もほぼ同様です。

 しかし、歯の先端を覆う構造はエナメル質ではなく、エナメル質のような構造という意味で「エナメロイド(enameloid)」と呼ばれることが多い。その理由は下記に示します。

 さて歯の大部分を占める象牙質(dentine)は、変化の多い構造で血管の入っている脈管象牙質vaso dentine),無構造の硝子様象牙質vitro dentine)あるいは岩様象牙質petro dentine),細胞の入っている骨様象牙質osteo dentine)など多種多様です。しかし、有機基質の大部分を占めるのは膠原繊維であることはすべての象牙質で同じです。骨やセメント質と象牙質など中胚葉性の硬く石灰化する組織共通の特徴です。

 歯は顎骨に癒合することが殆どで、そのさい顎骨と歯の間に歯足骨という骨ができることが多く見られます。この骨は両生類や爬虫類にも形成されます。

 もちろん、歯の中心には歯髄があります。

では次に、私の研究した魚の歯を中心に紹介します。

魚類(イスズミ)の歯

 歯はサメなどと同様に何世代にもわたり交換を繰り返します。あごの中には歯の原器が何世代にもわたって用意されています。

   イスズミの歯の原器があごの中に何世代にも渡って準備されている

エナメロイドと歯冠
 
歯の先端にあるのはエナメロイド(enameloid)があります。エナメロイドの中を大きな結晶が波を打って流れるように観察されます。この結晶はハイドロキシアパタイトで、骨や歯すべてに共通のものです。この波うったり、渦巻きのようになる結晶の束の走行配列の様子は、実は膠原繊維そのものなのです。これは歯の発生を研究するとエナメル質の中に膠原繊維が確認でき、中胚葉のもとにエナメロイドが形成されることがわかります。しかし、結晶の大きさは我々のエナメル質とほぼ同じくらい巨大になります。それは上皮からの影響なのです。結晶の束の走行配列が、エナメロイドの表面と象牙質に近いところで違います。それは、上皮の影響の強さによるもののようです。

    左が歯の全形、右が先端部の拡大
表面にエナメロイドが覆い、内側には脈間象牙質がある 
    エナメロイドの電子顕微鏡写真  左が表面近く、右が象牙質近くの結晶配列

       左はエナメロイドが形成される途中で象牙質の表面ちかくに認められた膠原繊維、右がエナメロイドのハイドロキシアパタイト結晶(脇田稔より)

 
歯の形成
 
 魚類の歯の発生で見逃せないことがあります。それは、歯の、もっと厳密に言えばエナメロイドの外形が上皮の形で最初に決まる、ということです。歯を形成する上皮をエナメル器といいますが、エナメル器の形が最初に出来上がり、その鋳型の中に膠原繊維などの有機基質が分泌され、これらの隙間に結晶が沈着するのです。上皮の形によってエナメロイドの形が決まる、つまり上皮の鋳型の中に石灰化するのです。つまりエナメル器の形でエナメロイドの外形が決まるのです。ですから歯の外形(エナメロイドの形)は最初にきまってしまいます。この点が両生類、爬虫類、哺乳類などの歯と根本的に違うところなのです。

魚類の歯の形成
 濃い緑がエナメロイドは上皮の鋳型の中に作られ、そのさらに内側と下に象牙質(薄い緑色)が形成される。赤はエナメロイドに接する上皮の細胞。この細胞がエナメロイドの形成時に有機基質を脱却するため(溶かして抜き取り)して結晶が大きくなる。
 上皮からは次の世代の歯の原器(ピンク色)が準備される。

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