両生類の歯

 両生類の歯も多種多様ですが、現在地球上に生息している種類は爬虫類や哺乳類ほど大きくはありません。ここでは大学院生の千坂君が研究してくれたアフリカツメガエルを中心に紹介します。
 
両生類の歯の特徴
 両生類の歯も魚類と同様に多生歯性で何回も交換します。歯の形もいろいろありますが、魚類と根本的に異なることがあります。それは外胚葉性のエナメル質による歯冠が形成されるということです。そして歯冠に対して歯根が常に形成されます
 歯冠に関してはその先の突起が二つに分かれたりすることがあります、これを咬頭の起源だと考える研究者もあるほどです。つまり、エナメル質を作る能力が上皮に生まれ、魚類とは全く違う能力を獲得した、と言うことになります。この概要は発生の項目で記述します。

 さて、 有名な両生類の歯は迷歯類の歯です。
歯の表面にはたくさんの筋がありますが、歯を切断すると複雑な迷路となっているのです。これからいえることは、複雑な形の歯であるのに、歯髄は繋がっていることです。ここから言えることは、たくさんの小さな歯が集まって一つに癒合した、あるいは小さな歯が分化して複雑な歯になった、ということです。前者を癒合説、後者を分化説といいます。
 私はどちらも正しくある場合には癒合し、また違う場合には分化して進化した、と考えています。その根拠は、歯の原器も分化するのは普通ですが、癒合することもあること、そして多くの体の器官や組織は癒合もするし分化もする、ということです。

     迷歯類の歯 左が全景 右が断面
断面を見ると真ん中の歯髄が複雑に曲がりながら迷路のように歯に入り込んでいるここから迷歯類という名前が生まれた
(Owenを改変)


 アフリカツメガエルの歯は顎に歯足骨で結合しますが、他の両生類は直接あるい一部が歯足骨によって顎の骨につきます。すく場所もいろいろで、顎の上の先につくのを端生性、側面につくのを側生性、上に溝ができてその中に歯がつくのを槽性などの名称が与えられています。ちなみに哺乳類の歯は顎の穴または溝(歯槽)に生えているので槽生あるいは槽生性なのですが顎骨に癒合をしないため、釘植と名前がつけられています。

     アフリカ爪ガエル 左が歯の全景、右が歯の切断面、
右の写真の右下に歯足骨と顎骨の癒合が観察できる。

歯の発生
 外胚葉性のエナメル質という意味は、上皮が変化してエナメル質を作るエナメル器を形成し、その内側のエナメル芽細胞が上皮の下(中胚葉側)にエナメル質を作る有機基質分泌、そして脱却(吸収)して、有機基質が消えた隙間に結晶が沈着してエナメル質ができる。魚と違う点は、エナメルが細胞が基底側へエナメル質の形成に必要な物質を分泌する(基底分泌)をすること、これによってエナメル芽細胞(エナメル器)は歯冠の外形を作るのではなく、有機基質を分泌しながら外側へ大きくなりながら動く(後退する、ということです。つまりエナメル質は象牙質の表面からエナメル質の表面にむかって厚くなってゆくのです。それを証明するのがエナメル質表面にできる周波条という模様です。

     左がエナメル質の歯冠、表面にある皺が周波条、外側に向かってエナメル質が厚く成長する(左の図 赤矢印がエナメル質の成長方向、緑の矢印が象牙質の成長方向)ためにできる。

 両生類の歯は魚類と同じように実にさまざま、多様ですが、歯の先端に外肺葉性のエナメル質歯冠)ができることが最大の進化です。この進化の基盤は、エナメル質を作るエナメル芽細胞が極性変化そして基底分泌をするようになったためです。上皮の変化したエナメル芽細胞が代謝の方向を変えた、ということです。このような分泌様式(基底分泌)はいわゆる内分泌器官のホルモンをだす細胞と同様です。このへんに進化のカギがありそうです。
 この進化は歯にとって重要です。なぜなら歯冠が多様に変異性を持つための基盤となるためです。目立たない両生類の歯の構造にはこのような歯にとって重要な進化のカギが見えます。
 これ以外にも咬頭のような歯冠の突起の構造、歯根が外と内側にくびれるなど歯の多様性の元になるような様々の現象を認めることができます。

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